ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『新トロイア物語』

ウェルギリウスの叙事詩『アイネイアス』を現代日本人の目線で書いたらどうなるか……、という意欲作。
あくまでも現実的にパリスとヘレンの駆け落ちやトロイの木馬が描かれる。
それが実に生き生きとしていて面白い。

とはいえ、神々とは切っても切り離せない時代の話。
ギリシャ神話は最低限、頭に入れておいた方がいいだろう。
(オススメは同著者の 『私のギリシャ神話』『ギリシア神話を知っていますか』 の二冊)


物語の主人公は、トロイア王家の血を引く青年アイネイアス。
彼がトロイア戦争敗北を喫した後、故国再建を求めてローマの礎となったラウィニウム建国するまでが描かれる。
叙事詩らしく、なかなか壮大だが馴染み深い工夫が随所に施され一気に読める。
登場人物の心の機微も繊細で興味深い。

アイネイアスには美しいプラチナブロンドから「銀」という渾名がある。
土地の名前や人物が多数登場するが、こうした渾名を付すことで特徴や役割と共に覚えやすい。
きっと昔の人もそうだったのだろうなぁ、とも思う。

物語の核は、パリスによるヘレネ略奪に際しての「テュンダレオスの掟」を建前としたギリシアによる「錫」を求めた戦争である。
「テュンダレオスの掟」とは絶世の美女・ヘレネが結婚する時に求婚者全員が交した約束事だ。
ざっくりいうと「抜け駆けした野郎は全員でフルボッコしますよ」というもの。
錫の産地を欲しているギリシア側にとって、ヘレネ略奪事件は「国ごとフルボッコ」する格好の口実になったのである。

敵方の大将であるアガメムノンが、また狡猾で憎々しい。
こうして読者が思いっきり憎める相手と、「建前」という船に「本音」の帆を孕んだ大船団がトロイアへ攻め寄せた。

そこからは有名なエピソードのオンパレード。
なかでもヘクトルとアキレウスの一騎打ちは印象深い。

勇ましいヘクトル、人情に厚いアキレウス。
軽薄なイメージのあるパリスでさえ自身の心の揺れに悩む描写があり、アイネイアスとの友情にも納得させられるものがある。

歌舞伎の演目なんかにしたら、凄い見せ場になりそう。
……と、実はここに「面白さの秘密」がある。

登場人物が日本の武士なのである。
これは作者が「あとがき」ではっきりと述べている。
神々が登場する英雄譚の、遥か彼方の時間を超える事は想像するのも難しい。
それならば考え方や価値観、それらを資料を基に許す限り「日本の武将」として描くしかない。
だから、読んでいて面白いのだ。
登場人物の気持ちが理解できる。
生け贄の習慣などシンパシーを覚えるかどうかはともかく、解釈が可能でなければ物語は成立しない。読み手はついていけない。
この部分の肉付けが見事だ。

後半では、カルタゴのエピソードもじっくり描かれていて面白い。


なんとなく知ってたけど、ちょっと調べてみようかな。
そんな知的好奇心も刺激してくれる、とても贅沢な一冊だ。






【蛇足】
「プリキュア」っていう人がいそうでいなかった。
フェニキアとかさ、似てるじゃん。
実際はいたかも……なんてね。

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| 阿刀田高 | 12:56 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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