ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『月は無慈悲な夜の女王』

月。
見上げる月はとても美しい。
夜だけでなく、昼に白く浮かぶ月も。

けれど、そこに人が住んでいたら私は同じように「美しい」と感じるだろうか。
そこが流刑地で、罪人だと思っている人々が沢山住んでいる場所だったとしたら……?
やはり「美しい」と感じるだろうか、それとも「忌まわしい」と忌避するだろうか。
想像力が追い付かないけれど、今と違う感じ方をする事だけは、なんとなく分かる。

作中、主人公をはじめとする月世界人は地球人を「地球虫」と呼ぶ。
JAXAの月周回衛星「かぐや」が見せてくれた地球の姿はとても美しかったが、月世界人は「美しい」とは思わないだろう。
たとえ、それがかつての故郷だったとしても。


重力が地球の1/6、長命、男女比の差から結婚の形態も全く異なる月世界。
主人公のマヌエルはエンジニアだ。
それも、かなり重要なポジションに居る。
月世界の全てを司るコンピュータ「マイク」と友人関係を築いている唯一の人間だからだ。
マヌエルの仕事はマイクの「ちょっとしたイタズラ」や「ちょっとしたジョーク」を嗜める事。

そして、マヌエルはあれよあれよという間に地球へのクーデターに巻き込まれてしまう。
少数精鋭の“彼ら”が思いついた地球への攻撃方法はもっとも原始的なやり方だ。
笑ってしまうほど原始的な……。


読んでいてマイクの成長が少し怖いな、と思った。
坊やから大人への華麗なる成長。
それは予測を遥かに超えてしまう存在への恐怖だ。

老獪ながらチャーミングなデ・ラ・パス教授、熱心な女性革命家のワイオ、マヌエルを包み込むマムの存在。
全ての人物に独特の厚みがある。
性格や位置関係など全く違う文化なのに、マヌエルの目を通してすんなり感情移入できてしまう。
ストーリーのスピード感も魅力的だ。


作中、繰り返される言葉がある。

「無料の昼飯はない!(タンスターフル!)」

革命というものは往々にしてこういうものなのだろうなと思う。
いつか、どこかで対価を支払わねばならない。
そして、作中、彼らが支払った「昼食の代金」とは……。


読んでいる間は、とにかく痛快!
デ・ラ・パス教授にやられた~!と思ったり。
マムの包容力に癒されたり。

読了後は……、ちょっと淋しい。
けれど、どこにいようと「人間は人間なのだ」と月を見上げて思う。
そのうちこれが火星になるかもしれないな、とも。


『夏への扉』 とも甲乙つけがたい面白さ。
どちらも哀愁のある“人間臭さ”が好きだからだ。





書影が美しい……!

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