ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

『歌う船』

ヘルヴァがこの世に生を受けた時、その身体は捻じ曲がった奇形だった。
しかし、脳は極めて健康。
彼女は両親の希望で機械の身体をもつ「殻人(シェル・パーソン)」として生きることになる。

やがて16歳の誕生日。
最後の手術が行われ、チタニウムの身体を得る。
「頭脳船(ブレイン・シップ)」と呼ばれる宇宙船になったのだ。
彼女は終生「宇宙船」として生きることになる。


機械の身体を持つ、ということがテーマであるサイバーパンクものは悲劇が多い様に思う。
少なくとも私は「やっぱり人間の身体がないとね」という結末ばかりを読んできた。
例えばティプトリーJr.の短編 「接続された女」(『愛はさだめ、さだめは死』収録)は悲劇そのものだし、『攻殻機動隊』の草薙素子にも高い能力とは裏腹に憂いを感じる。


しかし、ヘルヴァは違った。
ハーバードやコロンビア大学を卒業して、意気揚々と活躍する女の子の話。
恋する少女から自立した大人の女性へと成長する女の子の物語。
そんな感じで読み進んだ。
全くなんの違和感もなく。

彼女は「船」という自分の身体に誇りを持っている。
それがこの作品では重要なのだ。

ヘルヴァはシェル・パーソンとしては少し変わった趣味として「歌うこと」が大好きだ。
美しい彼女の声は、時にテノールに、バスに、アルト、ソプラノ、コロラトゥーラまでを歌い上げる。
ついたあだ名が「歌う船」。

ブレイン・シップは「ブローン」と呼ばれる人間のパイロットと組んで仕事をすることが多い。
彼女が求めるブローンは素敵な男性。
やっぱり、普通の女の子だ!

そんな彼女の成長物語が短編として描かれる。

「歌った船」
「嘆いた船」
「殺した船」
「劇的任務」
「あざむいた船」
「伴侶を得た船」


ヘルヴァは仕事が出来るバリバリのキャリアウーマンだ。
機転がきいて、決断力も実行力もあるし、上司に対しても必要とあれば怒鳴りつける。

それでもちっとも嫌味じゃないのは「ヘルヴァという女の子が魅力的だから」の一言に尽きる。
気に入らないブローンにはうんざりする。
相性のいい相手とは一緒に歌ったりもする。
人間くさい自分が好きで、それ以上に人間が大好きなのだ。

そうやって、一話ごとに大人の女性へと成長するヘルヴァを応援せずにはいられない。

ブレイン・シップの寿命は永遠ともいえる。
いずれ朽ちる身体のブローンとの悲しい別れも覚悟しなければならない。
それでも、彼女は乗り越えるだろう。


「ヘルヴァ!決して変わらないでくれよ」

彼女の魅力が磨かれこそすれ、決して変わらないことを、この言葉の発言者と同じように確信する。





関連記事

| SF | 16:11 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://cittagazze.blog60.fc2.com/tb.php/435-bd9de208

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT