ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

2009年09月 | ARCHIVE-SELECT | 2009年11月

| PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

『嗤う伊右衛門』

なんて壮絶ななんだろう。
なんて哀しいなんだろう。


笑わぬ男、伊右衛門。
彼が「嗤った」時、口の端から歯が視えた。
そんなことは書かれていない。
読み返したが、書かれていなかったと思う。
が、私にはハッキリと不気味に覗く犬歯が視えた。


漢和辞典を引いてみると
 

【嗤】 口と、音を表す蚩(シ・歯をむいて笑う声)とから成る。 (旺文社漢和辞典)


ああ、やっぱり……。

何故、嗤ったのか。
何を、嗤ったのか。
そうれはもう、愛しているからだろう。
岩を。

二人はたぶん似過ぎていたのだと思う。
強過ぎて、美し過ぎた。
闇夜を斬り裂く白刃の如くに。

そして、二人の周りに渦巻く、様々な愛。
歪んだ愛。
その中で、岩と伊右衛門は鮮烈なまでに美しい。

何度も何度も読み返しながら、酒でも呑んでいる気分になった。
日本語に酔ったのだ。
北斎の図版を使った装丁も素晴らしい。
日本人としてこの作品に出会えて良かった、と心から思う。

それにしても、この酒はちとタチが悪い。
狐狸の酒に酔い過ぎぬうちに祓ってもらわねば。

「御行奉為」(おんぎょうしたてまつる)

希代のトリックスター、「御行の」いや、「小股潜りの又一」との再会が楽しみである。




| 京極夏彦 | 23:36 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

| PAGE-SELECT | NEXT