ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『エジプト十字架の謎』 (創元推理文庫 新訳版)

他社からの新訳も出ているが、断然オススメなのがコチラ!
なんといっても、カバーイラストが最高。
読了後に見て
「あっ!」
これを是非体験していただきたい。
読了済みの方は思わず「ニヤリ」とするだろう。

私が初めてエラリー・クイーンと出会ったのがこの『エジプト十字架の謎』だった。
“読者への挑戦状” が国名シリーズのお約束だが、見事に
「やられた~!」
海外ミステリの贅沢な洗礼を受けた、思い出深い作品である。

今回、新訳版を読み、改めて井上勇版の旧訳を読み返してみた。
感じたのは、エラリー君のチャーミングさ、読者を巻き込む様な語りかけ、仕掛けられた遊びの魅力についてだ。
それが、より分かりやすく、読みやすくなっているということ。

さて、私が「エラリー君」と表記することに、違和感を覚える方もいらっしゃるだろう。
僭越ながら、少々ご説明させていただきたい。

「エラリー・クイーン君」はハーバード大学卒の推理作家だ。
ニューヨーク市警に勤める父リチャード・クイーン警視にくっついて、小説のネタを探しつつ事件を解決する探偵でもある。

しかしながら、前作『ギリシャ棺の謎』あたりまでは「この若造が」と、あまり重きをおかれていない感じ。
国名シリーズを重ねる毎に「探偵」として周囲にも認められていく。
本書ではその途上、といった印象だ。
約180cmのスラリとした体つきに、トレードマークは鼻眼鏡(パンスネ)、愛読書は辞書、愛車はデューセンバーグのオープンカー。

このデューセンバーグが大活躍するのが、また本書の大きな特徴であり、見どころの一つ。
思わず読者まで息切れがするような追走劇。
愛車を駆るエラリー君の焦燥感や情熱に「若さ」を感じずにはいられない。

今回彼が立ち向かう事件の発端は、頭部を切り取られ Tの字 に磔にされた遺体だ。
被害者のあらゆるところに の文字が残される。
誇示するように。
あざ笑うように。

登場人物は「いかにも怪しい」人々ばかりだ。
エジプトの神を名乗る老人、ヌーディストが暮す島。
大きな屋敷に住む住人や隣人も、事件の周りをウロチョロウロチョロ取り囲む。

犯人の名前や動機が早々と分かってしまうのも本作の特徴の一つ。
しかし、名前が分かっても、動機が分かっても、顔が分からない。

近くに潜んでいるのか、遠くから次の獲物を狙っているのか分からないという独特の不気味さ。

陰惨な事件だが、ラストの一行がチャーミングで、温かい締めくくりとなっている。


……さて、これからお読みになる読者諸君、彼の挑戦を受ける準備はできたかね?

「まったくもって、何もわからんのだがね」

さじを投げるのは読んでからでもよいではないか。
エラリー君の勝負を受けるか否か。
「受けない」という選択肢は「大変もったいない」とだけ、最後に記しておきたい。







この度【本が好き!】様の献本システムを通して【東京創元社】様より本書を頂戴致しました。
新訳での再会のチャンスを頂き、誠にありがとうございました。


| エラリィ・クイーン | 00:30 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『レーン最後の事件』

最後の事件は、ただただ寂しく悲しかった。
冒頭の「著者覚書」から引用すれば 「嘆かわしいほど残酷なこと」 だ。


最後の事件は、極めて不思議な人物の来訪から始まる。

サム元警視の探偵事務所に現れた七色の髭の男。
その男が破格の値段で保管を依頼した謎のマニラ封筒。
逃げ去った青い帽子の男。
人数の合わないバス旅行の団体客。
行方不明になった警備員。
シェイクスピアの稀覯本。
謎の記号列。
そして、殺人。


ミステリの材料を「これでもか!」と詰め込んで、連作は終幕に向かって容赦なく展開する。
ページを捲る手が震える様だった。

「犯人のなんと愚劣なことか」

レーン氏の言葉が突き刺さると同時に、あの有名な台詞を思い出さずにはいられなかった。


To be or not to be, that is the question.
               「ハムレット」 第三幕一場より






| エラリィ・クイーン | 00:00 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『Zの悲劇』

「えっ?」と思いながら読み始めた。
まずは前作、ハッター家での事件 『Yの悲劇』 から10年もの月日が経過していること。
そして、何よりも女性の一人称での文体。

そんな驚きをよそに、私はすぐに語り手であるペイシェンス・サムが好きになった。
彼女は前作、前々作で信頼関係を築いたレーン氏の盟友ともいえるサム警視の娘なのだ。

しかし堅物の父親に対して、なんと自由奔放、豪放磊落な女性だろう!
レーン氏に会うや否や見事な推理力を発揮して、サム警視には悪いけれど鳶が鷹を産んだような……。
いやいや、たぶんこの表現はペイシェンス嬢のお気に召すまい。
ここは「青は藍より出でて藍よりも青し」とでも言っておこう。

今回はタイムリミットに向かって畳み掛けるような展開が見ものだ。
ペイシェンス、今は私立探偵になっているサム警視、そしてドルリー・レーン氏。
三人は無実の罪で死刑に処せられる受刑者を救うために奮闘する。

じりじりと迫る時間。
小さな町で次々と起こる殺人事件と、被害者に送りつけられた謎のピース。

終盤に向かって息つく暇もない緊迫した空気が読者にも伝染する。
『X』とも『Y』とも違う解決への突破口も、なんともいえず味わい深い。

レーン氏が犯人を追いつめる様は、まさに舞台中央で演じる役者をみているよう。
その華麗さに惚れ惚れすると同時に、ペイシェンスという華やかな後継者的存在も加わった本作。
次回作が楽しみになると同時に、終幕がどんなものになるのか寂しい思いで複雑だ。




| エラリィ・クイーン | 18:00 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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