ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『トムは真夜中の庭で』

大時計の鐘が真夜中の13時を打つとき、庭園が現れる――。

母の出産の為おじの家に預けられ、退屈な日々を過ごすトム。
遊び相手がいればなぁ、と思う日々。
そんなある夜、目の前に現れた不思議な庭園。
そこで彼はハティという名の少女と出会うのです……。

小学生の頃から気になっていた本だったのですが、先延ばしにしていたらいつの間にか大人になっていました。
そしてすぐ、子どもの頃に読まなかったことを後悔!
気になった時に読んでおけば良かった~!
子どもの頃に読んでいたらまた少し違ったろうなぁ。
ああ、勿体無い!!

まず、あり得ない夜の13時という秘密の時間のわくわく感。
丁寧に描かれた庭園の美しさや、思春期の苛立ち。

トムをハティと出会わせた「遊びたい」という子どもらしい欲求。
それを、「子どもだった私」はどう感じたのだろう。

じわーっとくる読後感。
物語の最後の一文が胸に染みます。
トムがハティと出会ったように、子どもの頃の自分と出会えたような気がしました。


もし、この記事を読んでくださっているあなたが、まだ十代で、この本を「つまらない」と感じても、どうか本棚の隅に、心の隅に置いておいてみてください。
そして、「大人になった」と思える日が来たら、また、ふとした事で思い出したら、どうかもう一度読んでみてください。
素敵な体験をお約束します。

それからね、大人になるって怖いかもしれないけれど、案外悪くないですよ。



| ファンタジー・幻想 | 22:53 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『黒蜥蜴』(戯曲)

面白い!!
江戸川乱歩の原作から一歩踏み込んで、「女賊・黒蜥蜴」と「探偵・明智小五郎」の“知られてはいけない恋”が主軸に置かれている。
ケレン味をたっぷり利かせて、芝居としての妖しさを引き立てる。

三島由紀夫が楽しんで書いたというのが伝わってくるなぁ。
もちろん、原作ありきの大胆な演出なのだけれど、こうも味付けが変わるとは!

また、刺青の「黒蜥蜴」の理由も明らかになっている。
これがまた素敵!

組織内の階級の最上位が「爬虫類の位」なのである。
黒蜥蜴に認められる最上の誉れ。
“女王の気高さ”が刺青と夫人に宿る。

そして少女のような恋心と、女王の恋情。

でも心の世界では、あなたが泥棒で、わたしが探偵だったわ。

このセリフ、舞台で聞いてみたかったなぁ……。



さて、実は本書は戯曲に止まらない。

収録されている座談会、その名も「狐狗狸の夕べ」
このまま読んで大丈夫か?
呪われないか?


LvE

さあ、どうする?
どうする!?
……思わず『レベルE』のクラフトさんになってしまった。


だって、メンバーが凄い。

江戸川乱歩、三島由紀夫、芥川比呂志、杉村春子、松浦竹夫、山村正夫。

すでに、なんかでてる。
でてるでしょ。

ミステリ座談会なのに何故か怖いものの話になって、そのまた何故かコックリさんを始めてしまうのである。
まさに、「予想の斜め上をいく」を体現しているではないか!

三島が内田百閒の 『サラサーテの盤』 をしきりに怖がっているのもなんだか面白い。

この対談では何の反応もなかったらしいのだが、さしものコックリさんもビビッてでられなかったのではないかと思う。

他にも美輪様こと美輪明宏との対談など「三島版・黒蜥蜴」がぎっしり詰まった濃厚な一冊。
宝石「エジプトの星」より価値のあるお宝だ。





| 三島由紀夫 | 21:44 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『幼年期の終り』

「あなたは自分のお部屋にいらっしゃい。どうしてって?だって、それが一番安全だもの。そうでしょう?」

ゲームをしながらママの手づくりのお菓子を食べて、本を読んで。
ママに取り上げられちゃったゲームもあるけど、その方がいいのかな。
悪口を言うクラスメイトもいない。
勉強だって、無理にしなくていい。
ママに言えば一番良い方法を全部教えてくれる。

……でも、どうして?



始めは良かった。
地球に飛来した宇宙人はなんでも与えてくれて、問題の解決方法を優しく教えてくれる。

与えられた“非日常”への高揚感にワクワクした。
しかし、次第に居心地の悪さを感じるようになる。
全てを管理されて、刺激のなくなった“日常”への退屈。

そして湧き上がる“疑問”。
どうしてそこまで守られなければいけないのか?

「ママはあなたが羨ましいわ。あなたには未来があるもの。そうでしょう?」

未来?
どんな未来?
あれ、おかしいな。
みんな何処かに行くみたいだよ。
ホラ、お隣の子も、お向かいの子も。
私は行っちゃダメなの?

「残念だけれど、あなたは歳がいきすぎているから行けないの」

どうして?

「パパがそう決めたから。ママだって本当は行きたいのよ」



与えられたのは“平和”ではなく、“隷属”ではなかったか。
他の介入でコントロールしようとするのは、プリミティブな文化への否定ではないだろうか。
今まさに、ジャングルの奥地で行っていることと同じなのではないだろうか。


本作はどうもキリスト教思想が強すぎる様に感じる。
クラークの宗教観から見て、キリスト教へのアンチテーゼなのではないのかと思うのだがどうだろう。
なかなか消化できずにいる。







2017年、新訳地球幼年期の終わり【新版】 (創元SF文庫)が発行されました。
他に幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)も2007年に発行されています。

私が書いたレビューは1979年発行の福島正実氏訳の幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341)です。

福島氏のノスタルジックで温かみある文体がとても好き。

| SF | 23:03 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『夜明けのヴァンパイア』

「おれたちみたいのが いちいち人を好きになってちゃ、たまらねえじゃねえか……」

                 高橋留美子 『人魚の傷』より



インタビューの語り手、ルイは1791年のアメリカでヴァンパイアになった。
以来、25歳の姿のまま。
しかし、それはヴァンパイアとしての肉体。
半死人のような姿……。

ルイはニューオリンズで農場を営む上流階級のフランス系移民だ。
一方、フランスは革命の嵐の中。
1791年は「ヴァレンヌ逃亡事件」が起きた年である。

そんななか、アメリカで暮らすルイの弟が幻をみたという。
信心深い彼の前に聖人が現れ「フランスへ行き革命の風潮を変えるように」という神託を得たというのである。

しかし、ルイはそれを“嘲笑った”。
そしてその直後、弟は悲嘆にくれたまま階段から落ちて死んでしまう。

これがルイにとっての「原罪」になった。

財産目当てのヴァンパイア、レスタトに襲われも、夜明けを棺の中で迎え続けることになっても、受け入れてしまう。
「原罪」がある故に、あまり葛藤を感じているようには思えない。

ルイが“ヴァンパイアの目”で見た世界は美しくもあったのだろう。
ヴァンパイアとしての視力。
ヴァンパイアとしての肉体的な力。

ただ、ルイには矜持があった。
それは人間としての感覚を失わないこと、人間の感じる“美”をヴァンパイアとして感じ続けること。

だから、“殺し”という名の食事もためらう。
ネズミの血などで飢えを凌ぐ。

一方のレスタトは「殺せ。自分の本性をわきまえろ」、だ。
レスタトは空威張りで気が弱い。
寂しがり屋で、利己的。
たぶん、一瞬たりとも独りでは生きられないのだ。

ルイを失わない為の人形として、隷属関係の一部に組み込む道具として、レスタトはもう一人を不老不死の世界に引きずり込んだ。
美しい少女ヴァンパイア、クロウディアの誕生である。
全ては「俺たち」でいる為にしたこと。

強固な意思をもつクロウディアに対し、ルイは流されるように生きる。
ただ、クロウディアに対する愛と責任感だけは強烈だ。

「まだあなたを愛している。それがあたしを苦しめるんだわ。レスタトのことはまるで愛さなかったのに。でも、あなただけは!憎しみの度合いって愛と比例するのね。結局、同じものなんだもの。あたしがどれほどあなたを憎んでいるか、これでわかるわね」

クロウディアの苦しみの叫びが切ない。
そしてその後、ルイが感情を爆発させる事件が起きる。

まだインタビューは続くが、ヴァンパイアの長すぎる時間は止まらない。
もしもまた、ルイが誰かを好きになったら……。
そう考えると胸が軋む。
人間の生命のリズムはドラムのようだとルイは表現するけれど……。
やはり、きしきしと軋むのだ。




| ファンタジー・幻想 | 02:53 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『BROOCH ブローチ』

私にとって、1月と2月は心がアンバランスになりがちです。
もう数年前から、ずっと。

ちょっとずつ、少しずつ、なんとか過ごしているつもりでいます。
けれど、気がつけば「ため息」が、ひとつ、ふたつ……。

ああ、良くないな。
でも、どうしようもない。

そんな時に出会った、この本に救われました。

溜め息をしすぎたら
深呼吸になった


ああ、そうか。
素直にそう思えて、たくさん、ため息をつくことにしました。

時には
わけがわからないくらいの方が
いまを味わえるのかもしれない


ああ、そうか。
また素直にそう思えて、ため息をついて、深呼吸。

小さな祈りを 胸にかざる


胸に手を当てて、小さく祈る。
そうしたら、ため息をつきながら淹れたコーヒーを飲もう。

それから、しゃきっと胸を張ってみよう。
また猫背になってしまったら、大好きな本に目を落とせばいいや。

これが、いまを味わう、っていうことかしら。



| 絵本 | 11:09 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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