ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『10月はたそがれの国』

夏の残りと冬の寒さの間の季節。
一年の黄昏時の季節。
それが、10月。

不思議な死がつきまとう粒よりの19編だ。
風、水、熱気……。
全て人知を超えたもの。
けれど、人間の残酷さがもたらす絶望もある。

「こびと」
「つぎの番」
「マチスのポーカー・チップの目」
「骨」
「壜」
「みずうみ」
「使者」
「熱気のうちで」
「小さな殺人者」
「群集」
「びっくり箱」
「大鎌」
「アンクル・エナー」
「風」
「二階の下宿人」
「ある老母の話」
「下水道」
「集会」
「ダッドリー・ストーンの不思議な死」


一番残酷だと思ったのは 「こびと」
取り返しのつかない“ちょっとしたこと”に、胸が痛くなった。

「つぎの番」 は、ブラッドベリお気に入りのメキシコの「死の祭り」を扱ったホラー。
こういう時の“直感”って、あらがえないのよね。
あらがえない怖さは 「大鎌」 も。
ザッ……、という音が耳に残る。

「マチスのポーカー・チップの目」「ある老母の話」 は人間の図太さにクスッと笑ってしまう。
図太さといえば 「ダッドリー・ストーンの不思議な死」 もそうなのかな。
被害者より加害者の方がかわいそう。

「使者」 はホラーかもしれないけれど、愛情に胸がぎゅっとなる。

そして、一番好きなのは 「アンクル・エナー」

“アンクル・エナー、みどりの翼をもって”

何度読み返したことか。
アンクル・エナーは、どんなハロウィンを過ごすのだろう。
きっと、みどりの翼で高々と……。

Happy Halloween!



| レイ・ブラッドベリ | 00:25 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『日の名残り』

「まあ、ミスター・スティーブンス。あなたは執事としては老練でも、心はティーンエイジャーですのね!」

心を浮き立たせながら旅する“品格”ある紳士に、こう声を掛けたくなった。

尊敬する主人に仕えたダーリントン・ホールでの年月。
ダーリントン卿のもと、国内外への会議に、歴史に携わったという自負。
その裏方である役割と同時に受け止めた父の死。
ミス・ケントンとの「ココア会議」。

ミスター・スティーブンスは、そんな日々のなか本当に自分の気持ちに気付かなかったのだろうか。
……いや、そうではないだろう。
彼のなかで「ミス・ケントン」は「ミス・ケントン」として存在し続けていたのだから。
まるで、子供が空いたクッキー缶に宝物をしまい込むみたいに、大切に大切にしていたのだろうと思う。

その宝物が、自分の価値観や信じてきたものが、壊れてボロボロになる感覚を私も知っている。
心がぎゅうぎゅう痛くて、自責の念に駆られる、あの感じ。

月日は容赦なく流れる。
けれど、悪いことばかりではないはずだ。
だから本を閉じながら、今度はこう声を掛けたい。

「まあ、ミスター・スティーブンス。あなたは執事としては老練でも、心はティーンエイジャーですのね!でもそれは悪い事ではありませんわ。ティーンエイジャーの良いところは、可能性に恵まれているっていうことですもの。……それに、ほら。日が落ちたあとは明るい月が昇ってきましてよ」



| 海外 | 17:45 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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10月に読みたい本がある!(2020)

10月だー!
ハロウィンだー!
今、「密」になっていいのは「不思議」だけ。
ハロウィンにご紹介してきた本や、ちょっと怖い本をピックアップいたしました。

『ハロウィーンがやってきた』 レイ・ブラッドベリ
『ぼくが死んだ日』 キャンデス・フレミング
『ギャシュリークラムのちびっ子たち ―または遠出のあとで』  エドワード・ゴーリー
『魔女の素顔 人はなぜ空を飛べるのか』 志賀勝

『恐怖の愉しみ』(上) 平井呈一(訳/編)
『恐怖の愉しみ』(下) 平井呈一(訳/編)

サァサ、お立合い~!お立合い!

| コラム | 01:17 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『王妃マリー・アントワネット』

知りたかったことがある。
“神”を信じる人は、この「革命」をどう思っていたのか。
どうして暴徒と化してしまったのか。

裁判があった。
ギロチンは毎日のように上下した。
王も、王妃も捕らえた。
それでも、「九月虐殺」が起こった。

もちろん、王党派や敵国の進攻など、不安はたくさんあったに違いない。
なによりも貧しかった。

しかし何故、一万人四千人とも一万六千人とも伝えられる人々が嬲り殺しにされたのか。
“神”という外枠の内で、どうして“獣性”がむき出しになってしまったのか。
胸にあったのは、自由、平等、そして「友愛」があったのではなかったか。


上巻は、アントワネットを憎むマルグリットの視点から始まる。
貧しい娼婦の身である彼女は、この時代の困窮を極めた人々の、王政を憎む人々の代弁者のような役割だ。
下巻では、民衆の“獣性”が露わになり、凄まじいエネルギーで読者の体も熱気を帯びる。

「首飾り事件」「ヴァレンヌ逃亡事件」「九月虐殺」そして、「王妃マリー・アントワネットの死」。

修道女として教育を受けたアニエスは言う。

「革命は王や王妃を殺す必要はないと思うわ。国王が反動主義者のシンボルだから抹殺せねばならぬというのは、民衆の眼を自分たちの失政からそらせるための口実にすぎなかったのですもの」

大義名分の為の革命ではもはやなく、モンターニュ派とジロンド派の勢力争いの結果だと。
しかし、「九月虐殺」の先導者ともいわれるマラーは「革命は戦争である」と主張する。

一方、アントワネットの王妃としての闘いも描かれる。
彼女のただひとつの武器は、「優雅(エレガンス)」。

「私がそのように育てられた優雅(エレガンス)。わたくしは自分の身になにが起っても、何を失っても、これだけは失くすまいと考えているのよ」

その言葉どおり、断頭台の上でもアントワネットは優雅だったと伝えられている。
また、本書ではフェルセンとの関係もプラトニックだ。

心身ともに追い詰め、追い詰められていく様は、まるで人間の“獣性”と“優雅さ”との闘いのようにも思える。
“神”を信じるアニエスのセリフからも、その行いがいかに大切で難しいものであるかが心に響く。

「わたくしたちは今、基督そのものに向かっているのよ。基督とは聖絵に描かれている姿ではないの。わたくしたちが目標として行動によって創りあげていく存在なの」

そして、作者は彼女にとある役割を与えるのだが……。


「一隅を照らす」こと。
宗教や時代は違えど、目標とすることは同じなのだと思う。
それを忘れたとき、“獣性”が顔を出すということも。



| 国内 | 16:14 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『星ぼしの荒野から』

何かに飢えていたようで、一気に読んだ。
水をゴクゴク飲んでいるみたいに。

どうしてだろう、決して明るい話しばかりではないのに。
しかし、美しさを感じる10編。

「天国の門」
「ビーバーの涙」
「おお、わが姉妹よ、光満つるその顔よ!」
「ラセンウジバエ解決法」
「時間割の天使」
「われら<夢>を盗みし者」
「スロー・ミュージック」
「汚れなき戯れ」
「星ぼしの荒野から」
「たおやかな狂える手に」



凄いアイデア!と思った 「時間割の天使」
いやいや、これは大変ですよ。

「われら<夢>を盗みし者」『輝くもの天より堕ち』 を読んでおくと、その残酷さをより強く感じる。

これって、『ソラリス』 じゃない?ソラリスの海!
そう思ったのは 「汚れなき戯れ」
セイレーンに近づいたらいけない。

ティプトリーJr.の世界が凝縮されたような 「たおやかな狂える手に」
遠くから聞こえる恋人からの声。
今いる所がつらいのならば、そこへ行ってしまえばいい。
どんなに遠くても、宇宙の果てでも……。

表題作 「星ぼしの荒野から」 は、人間という生き物が、とても可愛らしく愛し感じられた。

伸びゆく草木と、そよ風の感触と、青い空と、走る水――人間の、人間たちの心のなかにあったとき、彼が愛した極微的な暮らしのすべて。


たいていの人は善人だ。
旅行先で親切にしたり、されたり。
そういう経験がある人の方が多いのではないかと思う。
ただし、利用された経験がある人もいると思う。
もしかしたら、今でもそれを知らずにいることも……。

それでもやっぱり、描かれる多くは「愛」なのだ。
そして、心に「愛」を持つ人の方が断然に多い。



| ジェイムズ・ティプトリーJr. | 18:05 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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