ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『奇譚を売る店』

――また買ってしまった。

主人公の同じつぶやきから始まる短編集。
つぶやくのは古書店を出たあたり。
なんともいえない、ため息と共に……。

主人公が“買ってしまった”のは以下の6冊。
古書店らしいのは本ではなく、パンフレットや資料集も含まれるところだ。


『帝都脳病院入院案内』
『這い寄る影』
『こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻』
『青髭城殺人事件 映画化関係綴』
『時の劇場・前後篇』
『奇譚を売る店』



古本の面白いところは「想いが乗っているかどうか」だと思う。
全国チェーンで売っている古本、図書館の本、書店に並ぶ新しい本。
それらとは全く違う。
以前の持ち主の「想い」は勿論、店主の「想い」も乗っている。
その「想い」に振り回される主人公の気持ちが良く分かる。

だが、私ならこういう行動はとらないな~……。
そういう話しばかりだった。
ちょっと残念。


私も少し不思議な、というと大げさかもしれないが「買ってしまった」本に振り回された事がある。

それは1ページごとに花のイラストと簡単な英語が添えられた美しい本だった。
書き込みがあったけれど、古書店ではままあること。
それを面白がる人もいるくらいだ。

でも、その本は面白がってはいられなかった。
「乗ってる想い」が強すぎたのだ。
イギリスで出版されたその本は、どうやら誰かへのプレゼントとして贈られ、その誰かも何年も大切にしてきたような……そんな感じだった。
クセの強い筆記体で書かれ、それ以上はほぼ判読不明。

……いや、不明で良かったのだ。
私が持っていて良い本ではなかったのだから。
据わりが悪い。
その一言に尽きる本だった。

贈られた「誰か」は捨てるには忍びなくて捨てずに手放したのかもしれない。
手放したのは「誰か」が亡くなって整理させたからかもしれない。

きっと、私の役目は捨てること。
3日程手元に置いて廃品回収に出した。

私にとっては、あまりありがたい出会いではなかったけれど、嬉しい出会いも沢山ある。
だからやっぱり「買ってしまう」のだ。






| ファンタジー・幻想 | 06:37 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『日の名残り』

「まあ、ミスター・スティーブンス。あなたは執事としては老練でも、心はティーンエイジャーですのね!」

心を浮き立たせながら旅する“品格”ある紳士に、こう声を掛けたくなった。

尊敬する主人に仕えたダーリントンホールでの年月。
ダーリントン卿のもと、国内外への会議に、歴史に携わったという自負。
その裏方である役割と同時に受け止めた父の死。
ミス・ケントンとの「ココア会議」。

ミスター・スティーブンスは、そんな日々のなか本当に自分の気持ちに気付かなかったのだろうか。
……いや、そうではないだろう。
彼のなかで「ミス・ケントン」は「ミス・ケントン」として存在し続けていたのだから。

まるで子供が空いたクッキー缶に宝物をしまい込む様に、大切に大切にしていたのだろうと思う。

その宝物が、自分の価値観や信じてきたものが壊れてボロボロになる感覚を私も知っている。
心がぎゅうぎゅう痛くて、自責の念に駆られるあの感じ。

だから本を閉じながら今度はこう声を掛けたい。

「まあ、ミスター・スティーブンス。あなたは執事としては老練でも、心はティーンエイジャーですのね!でもそれは悪い事ではありませんわ。ティーンエイジャーの良いところは、可能性に恵まれているっていうことですもの。……それに、ほら。日が落ちたあとは明るい月が昇ってきましてよ」






| 海外 | 15:31 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『黒猫館の殺人 <新装改訂版>』

ああっ、やられた!!
机をバンバン叩きたくなった。

そりゃ違和感には気づきますよ。
でもね。
……そうか~!そうきたか~~!!

前作 『時計館の殺人』 とはまた違った意味でダイナミック。
毎回様々なオマージュを散りばめながら楽しませてくれるのも嬉しい。

加えて、本書では法月綸太郎氏の解説も読みごたえがあって面白かった。
ミステリファンはご一読を!






| 綾辻行人 | 20:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『オランダ靴の謎』 (創元推理文庫 新訳版)

作者が<<読者への挑戦>>で宣言している通り、論理的思考を怠らない読者なら『オランダ靴の謎』の犯人を当てることができる。(誰にも犯人を当てられない探偵小説は、ゲーム本来の定義からして、フェアプレイの名に値しない)。(略)だが、犯人を当てられることは、作者の知的敗北を意味しない。むしろその逆で、本書は犯人を当てた読者ほど、いっそうクイーンの力量に感服させられるような作品になっている。 
                                              
「本書解説:法月綸太郎」より



まさに!!
かねてより本格ミステリを読んで感じていた事。
そして、本書『オランダ靴の謎』を読んで思ったことを法月綸太郎氏がズバリ指摘されていた。
これを読んで「赤べこ」のように頷いた私は、冒頭に引用せねば!という使命感に駆られた。

とにかく、名作である。
「国名シリーズ」のなかでも純粋に謎解きができる一冊といえるだろう。

そして今回のエラリー君ってば、とっても挑戦的なのである。
「じゃあ、やってやろうじゃないの」という気にさせられる。
メモ欄まで用意されているんだもの!

そして、犯人の名前を「ぐるりっ!」と大きく囲んで読んだ第三部。
その名前がクローズアップされていくドキドキ感。

この気持ちは 「勝った!」 では決してない。
「凄い!」 なのである。

犯人の名前にいきつくまでも、笑っちゃうようなじれったさがチャーミング。
エンタメ性も最高だ。


本書の発表年は1932年。
それから世界中で数多の読者が挑み、楽しみ、感服してきた事に違いない「謎」。
その列に加われたことが、また純粋に嬉しいのである。






| エラリィ・クイーン | 00:48 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『火刑法廷』

デスパード家の当主が寝室で急死した。
そこで目撃されたのは、古風な衣装を身に纏った女性。
しかし、その女性は壁を通り抜けて消えてしまう……。

主人公には、もうひとつ気がかりがあった。
かつて火刑に処された毒殺魔、ブランヴィリエ侯爵夫人。
スティーヴンズの妻はその毒殺魔にそっくりだったのだ。
結婚前のマリー・ドブレーという名も、猫のブレスレットも同じ。
そして現在アメリカで暮らす夫婦が出会った土地が、フランス……。

心を乱されるスティーヴンズの心情が、読者にもじわじわと伝わってくる。
すえた臭い、湿った土の臭いまで感じるような……。

「法廷」 のタイトルに相応しく 「起訴」「証拠」「弁論「説示」「評決」 の5章からなる本作。

「説示」で落ち着くかと思いきや……!
過去からくる怖さ。
未来へ続く怖さ。

怪奇かミステリか、その両方か。
最後の最後まで気が抜けない。
怖っ!!






| J.D.カー/カーター・ディクスン | 16:21 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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