ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『迷路館の殺人 <新装改訂版>』

うわっ!楽しい!どうしよう!!
これが感想の全てだといっていい。

ミステリとしては、確かに無理がある。
「そこ、気付こうよ」って何度も何度も登場人物に突っ込む。
「志村、後ろ後ろー」みたいな感じで。

しかし、この 楽しさ!!疾走感!!
それらが全ての弱点を打ち消して余りあるのだ。
作者の若さが良い意味で表れていると思う。

何が楽しいかって、数多のミステリからのオマージュ、という「ピース拾い」である。
拾って拾って拾いまくる!
前作 『水車館の殺人』 で見つけた私なりの楽しみ方が満喫できた。
もう、ニヤニヤしっぱなし。

そして、再読がまた楽しい!

しかも今回は「迷宮」が舞台だ。
ギリシャ神話の世界がモチーフだ。
ミノタウロス、テセウス、ダイダロス……。
それぞれ個性的な役割と、個性的な登場人物に割り当てられた部屋の名前の意図を汲み取ったり。

懐かしかったのがワープロの「文豪」と「オアシス」。
私も小学生の頃にNECの「文豪」でキーボード操作を覚えたっけ。

作者が仕掛けた割と簡単な謎かけに初っ端から引っかかったが、これがまた……。
解く気があるのか、私は。今度は自分に突っ込んだ。

例えるなら、海水浴で泳ぎもせずに、砂浜で貝殻拾いに夢中になっている子供のような感覚。
ホント、なんだろう、これ。
思い出しても笑いが漏れる。
「夢中になる」という純粋な喜びを辿ること……。
それが私の“アリアドネの糸”だったのかしら。





| 綾辻行人 | 23:56 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『ユニコーン ジョルジュ・サンドの遺言』

2013年、夏。
「貴婦人と一角獣」のタピスリーを、国立新美術館で見た。

飲み込まれるような真紅。
色とりどりの植物。
様々な動物たち。
オリエンタルな衣装を纏った貴婦人。
そして、天幕に書かれた「我が唯一の望み」という魔法のような言葉。

これを目にしたら作家でなくとも、何かしらのストーリーを頭の中で思い描いてしまう。


本書は二部構成になっていて、前半は原田マハが描く、サンドとブサック城の謎めいた女城主との不思議な夢のような物語。
後半はサンド自身が自らの著作『ジャンヌ』で描いたタピスリーへの言及部分と、ブサック城滞在中の日記の抜粋。

ブサック城でタピスリーを見たサンドが大きく心を動かされた様を、著者は甘美な物語に仕上げている。


読了後、美術館で買った図録を本棚から久しぶりに出した。
そして、目の前に広がったタピスリーを見上げた時を思い出す。
息を呑む麗しさと甘美さ……。

もし、ブサック城で、いや、美術館でも……誰もいない時にタピスリーと対面していたら……。
私にも貴婦人の声が聴こえてきてもおかしくはないのではないか。
そんな風に思わせてくれる一冊だった。


――わたくしの話をしましょうか。
わたくしの唯一の望みについて――聴いてくださいますわね?




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| 国内 | 17:38 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『黒死荘の殺人』

「名探偵」は本の世界に数多存在するが、その個性ゆえに「会いたい人」と「関わりたくない人」に分かれる。

私の場合、ファイロ・ヴァンス氏(『ベンスン殺人事件』等)、C・オーギュスト・デュパン氏(『モルグ街の殺人』等)とは、あまり関わりたくない。
ちょっとでも何か言うと鼻で笑われそうで……。

話してみたいのは、エラリィ・クイーン氏(『エジプト十字架の謎』等)や、ドルリー・レーン氏(『レーン四部作』)である。
私がモタモタとしていても、こちらのレベルに合わせてくれそうな気がする。
国名シリーズの頃のエラリィ君なんて日本の文化について興味津々で聞いてくれるだろうし、レーン氏の朗々たるシェイクスピア劇の台詞は是非とも拝聴したいものだ。


さて、本作のヘンリー・メルヴェール卿(H・M卿)はというと……後者!
ちょっと覚悟(?)がいるけれど。
取り敢えず、日本酒でも持参しよう。

大きな口に禿げ頭。
象のような巨体。
足を机の上に投げ出して“腰を据えて考える”のがお得意のスタイル。
悪魔が逃げ出す程の悪態をつき、自惚れやで猥談の名手。

「とってもいやらしいお爺さまね」

この一言がぴったり。
部屋にジョゼフ・フーシェの肖像画を飾ったりして、なんかもうそれだけでキャラクターとしてインパクト大。
とにかく面白い爺さんなのだ。


さて、物語は語り手のケン・ブレークが友人からある頼まれ事をすることから始まる。
人によっては魅力的なお誘いかもしれない。

「幽霊屋敷でひと晩明かしてほしいんだ」

しかし、事案は幽霊の存在を確かめる事でなく、インチキ霊媒師の降霊会を見破って欲しいという事。
問題の場所は、かつてペスト(黒死病)患者を隔離していた石室だ。
離れに建つ完全な密室である。

屋敷に呪いをかけて死んだ男。
名はルイス・プレージ。
その凶悪な男が生前チラつかせていた短剣はロンドン博物館から音もなく盗まれ、屋敷との因縁が明らかになる。
そして起った「完全なる密室」での殺人。
しかも、被害者は盗まれた「ルイス・プレージの短剣」で血まみれになって殺されていた。


さあ、H・M卿が示して見せた答えは……!
「やられたー!」が犯人について。フーダニットの部分。
「えぇぇー?」っていうのがトリックについて。ハウダニットの部分。
ああ、これなのね。
これが元祖だったのね、って。
でも、ちょっとズルイ気がした。
分かんないよ!
もうちょっと情報公開プリーズ!!ぐぎぎぎぎ。くやしい。


しかし、まあ面白いんだなあ。
ゴシック感満載の舞台装置。
降霊会に霊媒師。
呪いを込めて死んだ男。
男の素性と屋敷の秘密が詳らかになる様子なんて、いかにも冷たい空気流れてますよ~って感じ。
雨、闇、ぬかるみ。
もーう、雰囲気バッチリ。

そして、チャーミングなH・M卿のキャラクター!
次にこの爺さんがどんな悪態をつくのか。
実はそっちの方が楽しみになってしまった。





| J.D.カー/カーター・ディクスン | 19:33 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『炎上 吉原裏同心(八)』

一言で申し上げよう。
本作は「サルゲッチュ」する話しだと……!!

面白いのだけれど、読みたいのはこういう面白さじゃないのよ。
コレジャナイの。
「サルゲッチュ」じゃないの!

前作 『枕絵』 に続いて作風が違ってしまって戸惑うばかり……。
求めているのは、こういう非現実的な面白さじゃないんだけどな。

百歩譲って「殺人」を教え込まれた「人殺し猿」までは良しとしよう。
しかし、しかし、猿が活躍しすぎ。
雁首揃えて、猿任せですかい?


実際に起こった「天明七年の吉原大火」を絡めているのだし、「田沼派v.s.松平定信」という政治的な転換期でもあるのだし、せっかくの題材が勿体ないなぁ、と思わざるを得ない。

“粋、見得、張り” が売り物だった、ワンダーランド的存在の「吉原」。
それ故、客からは“敷居が高い”と客足が深川などの「岡場所」に流れていく現実。
今後のテーマは「吉原遊郭そのものの在り方について」、ということになるようだ。

この重要問題を「猿」に奪われてしまった気がする。
どうにも“物語の敷居”まで下がってしまっている方が問題だ。







| 吉原裏同心シリーズ | 22:31 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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