ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『罪深き緑の夏』

「美しさ」とはなんだろう、と思わず考えてしまう。

淳は12歳の夏、「美しさ」と出会った。
蔦が絡みつく洋館、蔦屋敷に住む美少女、百合。

二つの塔がある、まるでお城のような蔦屋敷から現れた百合は、淳に「いばら姫」を連想させた。
百合の傲慢で冷徹な態度に驚きながらも惹かれた淳。

二度目の出会いは、その12年後。
やはり美しい百合。
しかし、再会した百合は事故に遭い「眠り姫」のように横たわった姿だった。

事故を起こしたのは、百合の許嫁であり淳の異母兄である太郎。
太郎は、平凡な容姿の淳と違い、王子のように「美しい」。

まるで物語の王子と姫のような二人に、何があったのか。
年の離れた許嫁。
それだけではないらしい。

そして、蔦屋敷の当主であり百合の兄の翔。
太郎の友人で、まるで堕天使ルシファーを思わせる「美しさ」。

これは「美しさ」に翻弄された人たちの物語だ。

淳、太郎、翔。
それぞれに共通するものは「美しさへの探求心」だろう。
淳と太郎は画家であり、翔は作家なのである。

次々と降りかかる災難。
それはやがて事件の様相を帯びてくる。
読み進むうちに明らかになる事実には、蔦のように絡みつく「想い」がある。

服部まゆみ作品特有の夢の中に居るような感覚が、本作にも満ちている。
時間を忘れて読み耽っては、夢の内容をなぞる。

なぞりながら「美しさ」とはなんだろう、と思う。

全ての中心になる蔦屋敷。
物語の終りを告げる一文に、ゾクッとした。





| 服部まゆみ | 09:14 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『皇帝のかぎ煙草入れ』

舞台はフランスの避暑地。
路地の狭いラ・バントレットに住むイギリス人のイヴ・ニールは離婚したばかり。
しかし、魅力的な彼女は同じくイギリス人のお向かいさん一家と親しくなり、長男トビイ・ローズと婚約する。
が、そんなある日、前夫のネッドが復縁を迫りに押しかけて来た。
イヴは自分の寝室から、お向かいで起きた惨劇の目撃者になってしまう……。

初読後の感想は、「ちょっとアンフェアじゃない?」というもの。
けれど再読してみると、「うわあ!?」という驚きに変わった。

「こんな凄いとこ突っ込んで書いてたんだ!?」
とにかくスリリングで面白い。
「うわぁ~!」の連続。

探偵役のキンロス博士には、もう少し魅力が欲しいところだけれど、シリーズものではないしこんなところかしら。
それに……。と、私もギリギリで止めておきましょう。

旧訳でお読みになっていた方なら気になるラストを飾る重要な言葉。
新訳版は、かなりお上品な表現。
上品過ぎて初読では別の意味に受け取ってしまったくらい。

そこだけちょっと残念だけれど、とにかく再読が楽しい……いや、怖いような、なんだか魔術にかけられたような感覚を味わった。
特に作家さんは、さぞ怖いだろうなあ。





| J.D.カー/カーター・ディクスン | 02:55 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『デミアン』

「たくさんの神がいるのは、一つの神がいるよりは、ずっと気楽ですよね」
                                 
               アーシュラ・K・ル=グウィン 『言の葉の樹』より



物語の序盤から中盤にかけて、心の奥の「何か」をメリメリッと二つに裂かれるような気がして怖くなった。
それが「どの部分の何か」が分かった後は、一歩引いて普通に読めたのだけれど。
主人公シンクレールとの距離感が掴めた感じがしたからだ。

そして、シンプルに「一神教は大変だな」と思った。
神は善いものでなければならない。
そんな「殻」の中に居るんだもの。

実際はそこまで厳格ではないのかもしれないけれど、堅信礼を受けるシンクレールは殻の中だ。

しかし、品行方正に生きられる人間などそうそういないだろう。
そこに射した「光と影」が、マックス・デミアンだった。

デミアンは、シンクレールの心を浸蝕する。


「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという」


「(略)あのイェホバの神をあがめることにぼくは少しも、露ほども異議はない。だが、この人工的に引き離された、公認された半分だけでなく、全世界を、いっさいをあがめ重んじるべきだ、とぼくは思うんだ。(略)あるいはまた、悪魔をも包含している神を創造しなければならないだろう。それに対して人は目を閉じてはならない。この世の最も自然なことが起きるのだとすれば」


「最も自然なこと」は「性生活」であり、それこそが生命の基だ。
それを黙殺してはならない、とデミアンは語る。


読了して、ラストの解釈が二通りあることに驚いた。
私には一つに思えたから。
本を読んでいればよくあることだけれど、自分の「殻」に気付いた瞬間でもあった。

私に見える世界には、あらゆるものに神が宿り、そのなかには鬼のような怖い神も存在する。
アプラクサスに頼らずとも、なんの不自然さも感じず生きている。

本当に、たくさんの神様の元で生きるのは気が楽だ。
「殻」に気付いても、それは議論の対象になるだけだもの。





| 海外 | 18:08 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『辺境の惑星』

<ハイニッシュ・ユニヴァース>第二作。

舞台はガンマ・ドラコニス第二惑星。
忘れられ、テクノロジーも失われつつある惑星だ。

ここで、「何から」忘れられたのか説明が必要だろう。

遠い昔、極めて発達した惑星ハインが、ある実験を始めた。
人間が生存可能な惑星に「種」を蒔いたのである。

「種」とは人間。
時には遺伝子まで組み替えて。

そのうちハイン自体が衰退してしまう。
数世紀後、再興したハインは宇宙連盟エクーメンを発足。
放置されていた植民地との平和かつ繊細な接触を試みる。
これが<ハイニッシュ・ユニヴァース>の骨子である。

しかし、このどこかで幾つもの植民地が忘れられてしまった。
ガンマ・ドラコニス第二惑星も、その一つらしい。

この惑星へ移住したアルテランが、どの段階の人々なのかは分からない。
ただただ何世代にも渡って、原住民であるヒルフと一定の距離を保ちつつ暮らしてきた。
結婚した例もあるが、歓迎される事態ではないらしい。

ヒルフはアルテランを「ファーボーン」とも呼ぶ。
「遠くで生まれた人」と。
だからもう、ずっとずっと、よそ者なのである。


本作の物語は驚くほど単純だ。
五千日続く冬の準備に追われるある日のこと。
ヒルフとアルテランの共通の敵、蛮族「ガール」の大規模な襲来の情報がもたらされる。

共通の敵を前にした団結。
ヒルフの少女とアルテランのリーダーの結婚による、新しい未来の兆し。

ヒルフのロルリーとアルテランのジャコブ・アガトが、恋を越えて愛から始まるところにル=グウィンらしさを感じる。
前作 『ロカノンの世界』 や、『闇の左手』で重要な役割をもつテレパシーのような「心話」を交す二人は、運命づけられているような存在だ。
特に、ロルリーの勇気には拍手を送りたい。

物語の重厚さを求めると肩透かしを食う感があるが、登場人物一人一人を思い浮かべると、なかなか愛おしい佳作である。





| アーシュラ・K. ル=グウィン | 22:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『ロカノンの世界』

<ハイニッシュ・ユニヴァース>第一作。

同シリーズの『闇の左手』や『所有せざる人々』を読んだ経験から、かなり身構えて読み始めたのだが……。
なんと若い!初々しい!かわいいこと!
ル=グウィンにも夢見る少女のような頃があったのね!と妙に感動してしまった。

しかし、そこはアーシュラ・K・ル=グウィン。
“西の善き魔女”の異名をとる作家である。

異なる世界の交流。
身分制度。
名前が持つ力。
友情。
そして、愛。

それらが強烈に胸を突く。


物語の始まりは、美しい奥方の夫への愛を描いた 「セムリの首飾り」 から。
それに次ぐ 第一章「星の君」第二章「さすらいびと」 が、ロカノンの物語だ。

舞台はフォーマルハウト第二惑星。
民俗学者のロカノンは、連盟より派遣された様々な分野の専門家たちと調査に訪れていた。
それぞれの研究成果を持ち帰ったまさにその時、彼らを爆撃が襲った。
失われたのは、かけがえのない仲間、調査結果、宇宙船……。

そもそも、フォーマルハウト第二惑星は極めてデリケートな位置づけにあった。
第一次のコンタクトで、文明の介入と取引があったのである。
それによって生じた懸念材料は、侵略者による惑星まるごとの略奪や奴隷化。

宇宙連盟の正式な管理下に置かれたなかでの、第二のコンタクトだったが、事態は遅きに失した。

ロカノンは償いと仲間の敵を取る為に、命と引き換えにしてもフォーマルハウト第二惑星を守ることを決意する。


「やつらの武器を奪って逆にやつらを攻撃してやりたい」


武器とは「アンシブル」という星間通信機。
座標を本部に伝えられれば、惑星へダメージを与える事なくピンポイントで殲滅させられる。

ロカノンは、調査中に心を通わせたハランの王子モギーンと共に南を目指す。
アンギャール族が駆るのは馬でなく「風虎」。
羽の生えた虎のような生き物だ。

『空飛び猫』の作者であり、大の猫好きのル=グウィンらしい発想だが、それのなんと魅力的なことか!
力強く羽を打つ音が聞こえてくるよう。
また、萩尾望都のカバーイラストがイメージぴったりで素晴らしい。

果てしなく、地図にもない「南」への旅。
そこにあるのは『ゲド戦記』第一巻を彷彿とさせる「無償の友情」だ。


読書中の感覚としては 『指輪物語』 に近い。
ドワーフのようなグデミアール族。
エルフのようなフィーア族。
騎士道を重んじるアンギャール。

しかし、根底に流れるのは確かにSFだ。
何より<ハイニッシュ・ユニヴァース>の幕開けとして、是非とも読んでおきたい一冊である。





| アーシュラ・K. ル=グウィン | 23:18 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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