ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『アイヌ民族』

イランカラプテ!(こんにちは!)

本書は物語形式でアイヌに触れることができる。
息づいている登場人物たち。
ハルコロ、という名の少女をとおして描かれるアイヌの美しい世界は魅力的だ。

子供のころには醜い名前をわざとつけて、禍いから遠ざけるという習慣。
イオマンテの祭りの賑々しさ。
喜び、悲しみ。
神々と生き、村同士の争いは徹底的に討論で解決するという生き方。
対して、村を襲う一団の襲来の緊迫感もある。

千里眼を持つというアイヌのシャーマン。
特にシャーマンを兼ねるお産婆さんのインパクトが凄い。

年頃になると女性が施す刺青。

「ピリカ?(私、綺麗かしら?)」
そう訊ねる年上の少女の、ピンク色に染まった頬の色までが見えるようで。

喜怒哀楽豊かな、純粋な生き方に強く惹かれる。

本を閉じたとき、大自然のなかに身をおいているような感覚が残った。
大地に抱かれているような安心感。


ちなみに、私も学生の頃お世話になった雑誌『non-no』。
この「ノンノ」はアイヌ語で「花」という意味からつけられたのだそう。
他に、身近な日本語では「ラッコ」や「トナカイ」もアイヌ語からきている。
遠いようで身近な存在なのだ。

言葉は文化だ。
どんなに迫害されても、滅びないものはある。
DNAの中に連綿と培われてきたもの。
心を強く引き付けるもの。
昨今流行りの「ロハス」なんて、その最たるものではないかしら。

勿論、そこには「滅ぼさせない」と、強く守ってきた人々の苦しい歴史があるのも忘れてはいけない。
そのお一人である知里幸恵さん。
美しい文体が光る名著、『アイヌ神揺集』 も併せて、是非どうぞ。





| 国内外の文化など | 05:47 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『月は無慈悲な夜の女王』

月。
見上げる月は、とても美しい。
夜だけでなく昼に見える月も。

けれど、そこに人が住んでいたら私は同じように「美しい」と感じるだろうか。
そこが流刑地で、罪人だと思っている人々が沢山住んでいる場所だったとしたら……。
やはり「美しい」と感じるだろうか、それとも「忌まわしい」と忌避するだろうか。
想像力が追い付かないけれど、「今」と違う感じ方をする事だけは、なんとなく分かる。

作中、主人公をはじめとする月世界人は地球人を「地球虫」と呼ぶ。
JAXAの月周回衛星「かぐや」が見せてくれた地球の姿はとても美しかったが、月世界人は「美しい」とは思わないだろう。
たとえ、それが故郷だったとしても。


重力が地球の1/6、長命、男女比の差から結婚の形態も全く異なる月世界。
主人公のマヌエルはエンジニアだ。
それも、かなり重要なポジションに居る。
月世界の全てを司るコンピュータ「マイク」と友人関係を築いている唯一の人間だからだ。
マヌエルの仕事はマイクの「ちょっとしたイタズラ」や「ちょっとしたジョーク」を嗜める事。

そして、マヌエルはあれよあれよという間に地球へのクーデターに巻き込まれてしまう。
少数精鋭の〝彼ら”が思いついた地球への攻撃方法はもっとも原始的なやり方だ。
笑ってしまうほど原始的な……。


読んでいてマイクの成長が少し怖いな、と思った。
坊やから大人への華麗なる成長。
それは、予測を遥かに超えてしまう存在への恐怖だ。

老獪ながらチャーミングなデ・ラ・パス教授、熱心な女性革命家のワイオ、マヌエルを包み込むマムの存在。
全ての人物に独特の厚みがある。
性格や位置関係など全く違う文化なのにマヌエルの目を通して、すんなり感情移入できてしまう。
ストーリーのスピード感も魅力的だ。


作中、繰り返される言葉がある。

「無料の昼飯はない!(タンスターフル!)」

革命っていうのは往々にして、こういうものなのだろうなと思う。
いつか、どこかで対価を支払わねばならない。

そして、作中、彼らが支払った「昼食の代金」とは……。


読んでいる間は、とにかく痛快!
デ・ラ・パス教授にやられた~!と思ったり。
マムに癒されたり。

読了後は、ちょっと淋しい。
けれど、どこにいようと「人間は人間なのだ」と、月を見上げて思う。
そのうち、これが火星になるかもしれないな、とも。


『夏への扉』 とも甲乙つけがたい面白さ。
どちらも哀愁のある〝人間臭さ”が好きだからだ。





カバーイラストが美しい……!

| SF | 09:37 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『悪魔が来りて笛を吹く』

金田一シリーズのなかでも、屈指のドロドロさではないだろうか。

今回の依頼者は、その椿元子爵の令嬢、美禰子。
なんともはや気丈なお嬢さんである。

依頼内容は、父の椿“元”子爵について。
“元”とつくのが斜陽感たっぷり。
そして、暗く落ちる“戦争”の陰。

美禰子の話しでは自らが作曲した、あるフルート曲を残して父である元子爵、椿英輔が自死を遂げた。
そのフルート曲こそ「悪魔が来りて笛を吹く」。

ドスぐろい血のにじみ出るような、呪詛と憎悪のメロディーなのだ。

しかし、椿英輔は死体確認後も目撃されていた。
愛用の黄金のフルートと共に。

父は本当に死んだのか。
自分に残されたメッセージ、そして曲をどう受け止めればいいのか……。
それが今回の依頼内容だ。

呪詛から浮かびあがる「火炎太鼓」の謎。
そして、椿子爵が見た「悪魔」とは?

滅びゆくアッシャー館を連想させるような、焼け残った椿邸もシンボリックだ。

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さて、ここからは作品のレビューとずれるが、全く関係がない事柄ではないと思うのでご容赦頂きたい。

私の大叔父は男爵だった。
当時は宮内庁からのお許しがないと結婚が出来なかった時代だ。
桐の箱に入った文書を見せてもらったことがある。
戦後“元”男爵となり、女中さんがいて、大きな犬を飼っていて、朝はトーストという生活。
一見優雅に思えるが「家より貧乏」だったらしい。
我が家の隣に住んでいたのだが、私が生まれる頃には土地を手放して郊外に引っ越してしまっていた。
斜陽そのものである。

しかしながら、私の親戚はやたらに陽気で、戦争中も戦後も「家は焼けちゃったけど生きてるからいいや」でやってきたようだ。
今も割と色んな事を「あっけらかん」と話してくれる。
だから、戦争当事者の話しが聞ける最後の世代として頭に叩き込んでいる事柄が多い。
そのひとつが「男爵」である。

戦後の没落貴族を身近に感じる一人としては、作者と別の意図で感慨深さを感じてしまう一冊なのである。





| 横溝正史 | 00:08 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『輝くもの天より堕ち』

本書は上質のSFであり、孤島型のミステリでもある。
そして、生き物の「愛」と「美しさ」「残酷さ」に溢れている作品だ。

再読して改めて圧倒された。
ティプトリーJr.作品のなかでは本作が一番好きかもしれない。
喜怒哀楽の全てを、言葉では表せない魂の根源的な部分を掴まれ、揺すぶられる。

心を揺らぎながら過ぎていく時間は、今思うとまるで「ノヴァ前線」のようだ。

星の最期の光であるノヴァ。
その「ノヴァ前線」の光の中では「時間揺動」が起きるという。
神秘的な体験を求めて、悲しい歴史のある惑星ダミエムに降り立つ人々。

幾重にも仕組まれた事件と共に表れる、様々なカタチの愛。
精神的な、愛。
肉体的な、愛。
そして、それを貫くカタストロフィー。
惑星ダミエムで起こった出来事は、スリリングで、美しくて……、とても苦しい。
「殺された星」の最期の輝きと共に、それらは頂点に達する。


ラスト数ページを、何度も読み返す。
ここにこそ、「心と体を繋げている一番奥のデリケートな部分」がある。
魂をグッと掴まれて、押さえつけられて、息が出来なくなりそうだった。


神々よ、どうかわたしに空気を ――


ヒロインが発した言葉は、私の言葉でもあった。
だから、私も思わず叫びたくなる。
パクパクと水面から口を出す魚のように……「どうか私に空気を!」、と。


ティプトリーJr.は東洋的思想の持ち主であると思う。
「生老病死」をSFの形で表す手腕は、同志ともいえる作家ル=グウィンにも通ずるものがあるように感じる。

正直、まだ噛み砕けていない部分も多い。
初めて読んだ時とは少し印象が違った。
もう一度読む時には、また変わるだろうと思う。
もう少し意味を理解できるように、自己研鑽をしていきたい。
このあたりも、ル=グウィンとの共通点だ。


私にとって、抱きしめたくなる愛しい一冊。
カバーデザインも素晴らしい!
こういう感情に出会えるから、私は本を読み続けている。

そして、今日も本の世界に飛び込むのだ。
それにはこの言葉がピッタリ。

グリーン、ゴー!





| ジェイムズ・ティプトリーJr. | 04:56 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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