ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『この闇と光』

その神はよいもの、気高いもの、父らしいもの、美しいものであり、高いもの、多感なものでもある。

                      ヘルマン・ヘッセ 『デミアン』より



これは盲いたお姫様の、美しくも残酷な物語……。

ある処に、囚われのお姫様がおりました。
名前はレイア。
国が戦争で敗けてしまったので、王であるお父さまと共に虜の身となりました。

お父さまはレイア姫を「光の姫」と呼んで慈しみ、色々なことを教えて下さいます。
だから難しいお話も、恐ろしい隣国のことばも分かります。

そして、いつもこう仰るのです。

「おまえは王女様、世界で一番美しいレイア姫」

姫が嫌いなのは沈丁花。
レイア姫を憎んで殺そうとする、ダフネと同じ香りがするから。

でも、お父さまが一緒だから大丈夫。

「おまえは王女様、世界で一番美しいレイア姫」

呪文のように繰り返されるこの言葉。

「おまえは王女様、世界で一番美しいレイア姫」

呪詛のように繰り返されるこの言葉。

お父さまの元、美しい音楽や美しい物語と共に成長したレイア姫。
……ですが、ある日突然に平穏な日々は終わってしまいます。


お父さまと過ごした危うくも優しい日々。
その後の日々。
レイアの生活は、スピノザの『エチカ』を連想させた。
困難な状況を乗り越えたレイアがどんな大人になるのか私には想像できないけれど、幸せであればいいと思いながら本を閉じた。





| 服部まゆみ | 14:13 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『歌おう、感電するほどの喜びを!』 (新版)

タイトルが素敵だ!!
(原題"I SING THE BODY ELECTRIC!")

「うーん、分からん」と思ったり、「これ好き!」だったり、「やけにパキっとしてるなぁ」と思ったり。
ヘミングウェイとディケンズへのリスペクトだったり。
とにかく色々詰まった18編。


「キリマンジャロ・マシーン」
「お邸炎上」
「明日の子供」
「女」
「霊感雌鶏モーテル」
「ゲティスバーグの風下に」
「われら川辺につどう」
「冷たい風、暖かい風」
「夜のコレクト・コール」
「新幽霊屋敷」
「歌おう、感電するほどの喜びを!」
「お墓の引越し」
「ニコラス・ニックルビーの友はわが友」
「大力」
「ロールシャッハのシャツを着た男」
「ヘンリー九世」
「火星の失われた都」
「救世主アポロ」



琴線に触れる物語は読んだ人全員が違うだろうと思う。
この本を中心に色々な読み方、感じ方、解釈を話し合うと面白そう。

私のイチオシは 「ロールシャッハのシャツを着た男」
も~、幸せの大盤振る舞い!

そして、「霊感雌鶏モーテル」 のわけの分からなさよ……。





| レイ・ブラッドベリ | 01:21 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『BROOCH ブローチ』

私にとって、1月と2月は心がアンバランスになりがちです。
もう数年前から、ずっと。

ちょっとずつ、少しずつ、なんとか過ごしているつもりでいます。
けれど、気がつけば「ため息」が、ひとつ、ふたつ……。

ああ、良くないな。
でも、どうしようもない。

そんな時に出会った、この本に救われました。

溜め息をしすぎたら
深呼吸になった


ああ、そうか。
素直にそう思えて、たくさん、ため息をつくことにしました。

時には
わけがわからないくらいの方が
いまを味わえるのかもしれない


ああ、そうか。
また素直にそう思えて、ため息をついて、深呼吸。

小さな祈りを 胸にかざる


胸に手を当てて、小さく祈る。
そうしたら、ため息をつきながら淹れたコーヒーを飲もう。

それから、しゃきっと胸を張ってみよう。
また猫背になってしまったら、大好きな本に目を落とせばいいや。

これが、いまを味わう、っていうことかしら。





| 絵本 | 19:21 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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『第九の日』

今こそ旅立ちのとき。
立ち上がって進むのだ。
生まれよ。 生まれよ。
第九の日の夜明けを迎えよ。

       レイ・ブラッドベリ 「救世主アポロ」より



本書は以下四編からなる短編集であるが、作品の性質上 「決闘」 のみのレビューに止めようと思う。

「メンツェルのチェスプレイヤー」
「モノー博士の島」
「第九の日」
「決闘」


「メンツェルのチェスプレイヤー」エドガー・アラン・ポー著『モルグ街の殺人』のネタバレを含んでいる
未読でネタバレが嫌、という方は『モルグ街』をお先にどうぞ。

特に 「モノー博士の島」 だけは H・G・ウェルズ著『モロー博士の島』を先に 読まれることを強くお勧めする。
あのなんともいえない厭な感じ……。
獣性、醜悪さ、歪み、嫌悪。
『モロー博士の島』を先に読む事 で、より不気味な歪みが浮き彫りになる。

「第九の日」C・S・ルイス著『ナルニア国ものがたり』 の登場人物が象徴的な役割で登場する。
こちらは一作目の『ライオンと魔女』を是非に。


さて、ここからが 「決闘」 のレビューである。

初めて読んだ後、どうしようもなく心が震えた。
何がどうなっているのか分からない。
ただ「美しい」と感じた。
けれど、何がどう美しいのか分からなくて困惑した。

再読して、「何が」の部分が分かった気がする。
私の中で困惑していた心が落ち着いた。

これは“始まりの物語”なのだ、と。

『デカルトの密室』 では「ユウスケ」と「レナ」という登場人物として、いわば作中作で描かれた、尾形祐輔と一ノ瀬玲奈。

今作で、やっと生身の祐輔と玲奈に会えた。
特にクールビューティーの玲奈には、一層人間臭さを感じて安心した。

ある事件が原因で、祐輔は「生きること」と決闘する。
「心と身体の痛み」を越えて共に生きることを。
それは、「第九の日」 で投げかけられたテーマでもある。

そしてこの作品で、祐輔と玲奈は、やっと「生まれた」のだと思う。

“心はどこにあるのか”。
二人がロボットに対して見つけようとしてきたことだ。

しかし、今度はお互いでそれを見つけようとした。

生まれること。
生きること。

「決闘」の果てに祐輔が見つけたものは「愛」だった。
闘わなければ得られないことである気がする。
他人とでなく、自分自身との闘いだ。

そして、もう一度「メンツェルのチェスプレイヤー」「モノー博士の島」「第九の日」「決闘」を読み直して確信する。

これは“愛と始まりの美しさを描いた物語”なのだ、と。





  

| 瀬名秀明 | 18:35 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『ソラリス』

一生、抱えていくんだろうな。
そんな想いはないだろうか。

トラウマとも少し違うもの。
忘れたいけれど、忘れてはいけないようなこと。
辛い記憶。


「正常な人間とはなんだろう?ひどいこと、下劣なことを一度もしたことがない人間だろうか?その通り。しかし、下劣なことを一度も考えたことがない人間がいるだろうか?いや、ひょっとしたら考えたことさえなくても、十年か三十年か前にその人間のうちにひそむ何かが勝手に考え、湧き出てきたことくらい、あるんじゃないかな(略)」


そういう想いに囚われても、普通ならお酒で気を紛らわせたり、別の事に打ち込んだりして生きていく。
しかし、それが一切できないばかりか、更に深く突きつけてくるのがソラリスの海である。

事の始まりは「こちら側」からのX線照射という「コンタクト」だった。
そして「あちら側」、ソラリスの海から返ってきた「コンタクト」が「お客さん・幽体F」の出現だった。

「お客さん」は、ソラリスに広がる「擬態形成体(ミモイド)」。
生きている海は形態を様々に変える。

主人公、ケルヴィンの前に現れたのは、自殺したかつての恋人ハリーだった。
自分のせいで自殺したかもしれない彼女。
しかし、ハリーが幽霊になって恨み言を述べるのではない。

ハリーは「ミモイド」であって、ハリーではない。
そして、ただ「傍に居る」のである。

一番目を逸らしたい存在が「常に居る」。
これはキツイ!!

しかし、ケルヴィンは「ハリーの似姿」に好意を抱くようになり、ハリーもまた自分が人間ではないと分かりながらケルヴィンを愛するようになる。
ここで描かれるのは真っ直ぐな愛情、恋物語だ。
自分の存在がケルヴィンを苦しめると知ったハリーの想いと行動が、切なく哀しい。

一方、他の登場人物の元にも現れている「お客さん」。
少ない描写から察するしかないのだが、絶対に見られたくない存在であろう事とだけは分かる。
それがまた想像力を刺激して怖い。


『ソラリス』の物語は唐突に終わる。
落丁か?と思ってページを確かめる程、突然に。

だから余計に最後のページ、最後のケルヴィンのことばが浮き立つのだろう。
何度も何度も反芻せずにはいられない。

重い内容でありながら、エンターテインメントとして楽しめる本書。
SF、恋愛もの、異なる存在との共存への模索、と様々なアプローチから読む事ができる。
それでいて、素直に面白く読めるのだ。
凄い!!
思わずうなってしまった。

そして……、心地良くはないけれど、不快ではない「何か」。
この本との「コンタクト」が、私の心にも「お客さん・幽体F」を呼び込んだ事は間違いないようだ。

忘れたふりして、忘れてない。
そういう「あのこと」だと思う。
キツイなぁ。






【100分de名著】「ソラリス」 が面白かった!
指南役の先生は本書を訳した沼野充義氏。
最終回にはSF作家の瀬名秀明氏もゲストとしてお話しされていて、自分が引っかかっていた部分が解けたり、新しい気づきがあった。

本書と併せて是非どうぞ!




| SF | 18:45 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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