ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『ぼくが死んだ日』

帰らなきゃ。
だって、ママが夜中の12時までに帰りなさいって言ったから。
もう16歳なのに。
けど、ママが心配してるっていうのは分かるし「あんなこと」をやっちゃった後だから仕方ない。

だから、マイクはシカゴ郊外の道路を自宅に向かって猛スピードで疾走していた。
……車のヘッドライトに女の子が照らされるまでは……。

怪談話のセオリー通り、マイクは仕方なく彼女を車に乗せる。
名前はキャロルアン。
56年前に死んだという。

キャロルアンにはある役目があった。

それは「子供達が眠る墓地」に案内する事。
そして、マイクの役目は「子供達の話を聞く」事。


そうしなきゃいけない。
聞いてもらわなきゃいけない。
だって……

「あたしたちはみんな、自分の話をだれかに話す前に死んでしまった。この世ではただの幽霊かもしれないけれど、あたしたちの話をだれかが覚えててくれて、話してくれれば、それは本当にあったこととして根をはり、生きつづけることができる」

今回、話す順番がきた子供達には「ある共通点」があった。

9人の子供達は死んだ年代も年齢も様々。
自然な口語体で、リレー方式に語りだす。
まるでシカゴの年表をバラバラに見ているようだ。

その「共通点」を見つけることが目的だったのかもしれない。


そして差し込む陽光。

「じゃあまた会おうな、アホやろう」
「そんなにすぐじゃないけどね」


眩い光のなか“命”を愛おしく思いながら、怖かったはずの墓地を去るマイク。


まだまだ順番待ちの子供たちが大勢いるのだろう。

「きっと来年はあたしたちの番ね」
「そうだといいけど……」
「あーあ、早く話してーな」

墓石の周りでは、そんな声が囁かれているのかも……。





| ファンタジー・幻想 | 22:13 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『べにはこべ』

1792年9月、フランスでは「あるもの」がブームになっていた。
ギロチンである。
誰の首でもいい。王党派であれば誰でもいい。
抑圧されていた市民は「自由」「平等」「友愛」を叫びながら、誰かの首が落ちる様を何よりの楽しみにしていた。

そんな時に現れたのがべにはこべ
「貴族」というだけでギロチン台に送られそうになっている人々をイギリスに逃がしている義賊団だ。
神出鬼没、大胆不敵。
後に残されるのは「紅はこべ」の花を模した、赤い星の紋章だけ。

ヒロインのマーガリートは、かつてフランスで人気のあった女優にして才女。
イギリス人のパーシィと結婚してからも社交界で引きも切らない人気者。
平民に生まれ、兄と共に助け合い、唯一持てるものは「知識」と「教養」だと登りつめたスーパーレディだ。

しかし、である。
この才媛が、なんだか「おバカ」に見えてしまうのである。
「あの人が好きな私が好き!」状態に思えてしまうからだ。
うーん……、ロマンス色が強すぎるんだろうなぁ。

実のところ 『十角館の殺人』(綾辻行人) を読んでいる時から違和感があった。
「何故、ここにオルツィが」、と。
そして、今やっと『隅の老人』の方か!!と気が付いた。

てっきり「オルツィ=べにはこべ」だと思っていたので、私までこの義賊団にまんまと一杯食わされた気分になってしまった。
マーガリートさん、浅薄な知識で「おバカ」呼ばわりしてゴメンナサイ。





| 海外 | 02:29 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『迷路館の殺人 <新装改訂版>』

うわっ!楽しい!どうしよう!!
これが感想の全てだといっていい。

ミステリとしては、確かに無理がある。
「そこ、気付こうよ」って何度も何度も登場人物に突っ込む。
「志村、後ろ後ろー」みたいな感じで。

しかし、この 楽しさ!!疾走感!!
それらが全ての弱点を打ち消して余りあるのだ。
作者の若さが良い意味で表れていると思う。

何が楽しいかって、数多のミステリからのオマージュ、という「ピース拾い」である。
拾って拾って拾いまくる!
前作 『水車館の殺人』 で見つけた私なりの楽しみ方が満喫できた。
もう、ニヤニヤしっぱなし。

そして、再読がまた楽しい!

しかも今回は「迷宮」が舞台だ。
ギリシャ神話の世界がモチーフだ。
ミノタウロス、テセウス、ダイダロス……。
それぞれ個性的な役割と、個性的な登場人物に割り当てられた部屋の名前の意図を汲み取ったり。

懐かしかったのがワープロの「文豪」と「オアシス」。
私も小学生の頃にNECの「文豪」でキーボード操作を覚えたっけ。

作者が仕掛けた割と簡単な謎かけに初っ端から引っかかったが、これがまた……。
解く気があるのか、私は。今度は自分に突っ込んだ。

例えるなら、海水浴で泳ぎもせずに、砂浜で貝殻拾いに夢中になっている子供のような感覚。
ホント、なんだろう、これ。
思い出しても笑いが漏れる。
「夢中になる」という純粋な喜びを辿ること……。
それが私の“アリアドネの糸”だったのかしら。





| 綾辻行人 | 23:56 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『ユニコーン ジョルジュ・サンドの遺言』

2013年、夏。
「貴婦人と一角獣」のタピスリーを、国立新美術館で見た。

飲み込まれるような真紅。
色とりどりの植物。
様々な動物たち。
オリエンタルな衣装を纏った貴婦人。
そして、天幕に書かれた「我が唯一の望み」という魔法のような言葉。

これを目にしたら作家でなくとも、何かしらのストーリーを頭の中で思い描いてしまう。


本書は二部構成になっていて、前半は原田マハが描く、サンドとブサック城の謎めいた女城主との不思議な夢のような物語。
後半はサンド自身が自らの著作『ジャンヌ』で描いたタピスリーへの言及部分と、ブサック城滞在中の日記の抜粋。

ブサック城でタピスリーを見たサンドが大きく心を動かされた様を、著者は甘美な物語に仕上げている。


読了後、美術館で買った図録を本棚から久しぶりに出した。
そして、目の前に広がったタピスリーを見上げた時を思い出す。
息を呑む麗しさと甘美さ……。

もし、ブサック城で、いや、美術館でも……誰もいない時にタピスリーと対面していたら……。
私にも貴婦人の声が聴こえてきてもおかしくはないのではないか。
そんな風に思わせてくれる一冊だった。


――わたくしの話をしましょうか。
わたくしの唯一の望みについて――聴いてくださいますわね?




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| 国内 | 17:38 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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